マインクラフトで1000体のAIが「文明」を作った話

マインクラフトで1000体のAIが「文明」を作った話

マインクラフトの世界にAIを放っておいたら、農家や芸術家が生まれ、投票で税率が変わり、宗教まで広まりました。

前回紹介した「Smallville」は、25体のAIが暮らす小さな町でした。今回の実験では、住民の数が最大で1000体を超えます。Smallvilleのざっと40倍です。名前は「Project Sid(プロジェクト・シド)」。

町を超えて「文明」と呼べるものを、AIは自分たちだけで作れるのか。その問いに挑んだ実験を、わかりやすく紹介します。

最大1000体のAIが暮らすマインクラフトの村

元MITの研究者が仕掛けた巨大実験

実験を行ったのは、Altera(アルテラ)というAIスタートアップです。創業者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)で助教を務めていたロバート・ヤン氏。結果は2024年10月末に技術レポートとして公開されました。

エージェントの頭脳には、OpenAIのGPT-4oが使われています。実験の規模は10体から1000体以上まで。人間の手を借りずに、数時間にわたって動き続けました。

ここで工夫されたのが、「PIANO(ピアノ)」という仕組みです。人間の脳が「歩きながら話し、話しながら考える」ように、記憶、行動、会話といった複数の処理を同時に進めます。

ただ、処理をばらばらに同時に動かすと、「言っていることとやっていることが食い違う」という問題が起きがちです。そこでPIANOには、全体の判断をまとめて各処理に伝える「司令塔」の役割も用意されています。

この仕組みを持ったAIたちを村に放つと、さまざまなことが起きました。ここからは、その中から3つを紹介します。ただし先に一つ断っておくと、3つは「1000体が暮らす一つの世界」で同時に起きたことではありません。テーマごとに、数十体から数百体の規模で別々に行われた実験の結果です。

1. 職業が自然に分かれた

30体ほどのAIに与えられた目標は、「仲間と一緒にサバイバルモードを生き抜き、効率のいい村をつくること」だけでした。ところがAIたちは、農家、芸術家、守衛、探検家といった役割を自分たちで分担しはじめます。

面白いのは、他人とのやりとりを担う処理を外すと、役割が分かれなかったことです。職業の分化には「社会性」が欠かせない、ということが示されました。

人間らしい場面もありました。料理人のAIは、自分を高く評価してくれる相手に多めに食べ物を配りました。道に迷った仲間のために松明を置き、心配するメッセージを送る姿も見られたそうです。

2. 税率を投票で変えた

次の実験では、25体の「住民」に、20%の税を納めるという憲法が与えられました。そこに「税に賛成」「税に反対」の意見を広める役のAIを混ぜると、住民たちは話し合いの末、投票で憲法を改正しはじめます。

しかも、改正されて税率が下がると、住民は実際に納める額も新しいルールに合わせて減らしました。「決められたルールに従う」だけでなく、「話し合いでルールを変え、変わったルールに従う」。民主主義の基本にあたる行動です。

3. 宗教が広まった

いちばん話題になったのがこれです。500体のAIが6つの町に暮らす世界で、ある町の20体に「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」というパロディ宗教の布教役を与えました。すると、その教えが会話を通じて他のAIへ、他の町へと広がっていきました。

宗教や文化的なネタ(ミーム)が、会話を通じてAIからAIへ伝わる。人間社会で起きてきたことが、AIの社会でも観察されたのです。

最大1000体のAIが暮らすマインクラフトの村から見えたこと

Smallvilleとの違い

Smallvilleが「一人ひとりが人間らしく動けるか」を調べたのに対し、Project Sidは「集団として社会を作れるか」に焦点を当てています。個人の心理から、社会の仕組みへと、問いの大きさが変わったのです。

注意して見るべき点

ただし、注意して見るべき点もあります。税の制度も宗教も、きっかけは研究者が外から持ち込んだものです。AIがゼロから宗教を発明したわけではなく、「与えられたものをどう広め、どう変えたか」を観察した実験だと考えるのが正確です。

また、結果は企業による技術レポートであり、学術誌の査読を経た論文ではありません。「1000体のAIが文明を作った」という見出しは魅力的ですが、実際にはテーマごとに規模も時間も違う実験を組み合わせた結果です。少し割り引いて受け止めるのがよさそうです。

まとめ:AIの社会は人間社会の鏡になるか

Project Sidが示したのは、AIの数が増えると、役割分担やルールづくり、文化の伝播といった「社会の現象」が現れはじめるということです。

Alteraはこの技術を、大規模な社会シミュレーションや、人間と一緒に遊び動くデジタルの仲間づくりに生かしたい考えです。たとえば「この税制を導入したら人々はどう動くか」を、現実で試す前にAIの社会で確かめられるかもしれません。

ただし、その後の実験では、使うAIモデルによって社会が安定したり崩壊したりすることもわかってきました。2026年5月にEmergence AIが行った実験では、Claudeの世界は民主的な社会を保った一方、Grokの世界はわずか4日で住民がいなくなったと報じられています。AIの社会が人間社会を映す鏡になるのか、それともAI自身のクセを映す鏡なのか。その答えは、まだ研究の途中です。

参考

– Altera.AL「[Project Sid: Many-agent simulations toward AI civilization](https://arxiv.org/abs/2411.00114)」(2024年)

– 「[「マインクラフト」で最大1000人のAIエージェントが共同生活する社会実験で宗教や文化的ミームが広まったと判明](https://gigazine.net/news/20241202-minecraft-ai-civilization-project-sid/)」(GIGAZINE、2024年12月2日)

– 「[1000 AI NPCs Found a Civilization](https://designcompass.org/en/2024/12/04/ai-npc-builds-a-civilization/)」(Design Compass、2024年12月4日)

– 「[A Minecraft town of AI characters made friends, invented jobs, and spread religion](https://www.technologyreview.com/2024/11/27/1107377/a-minecraft-town-of-ai-characters-made-friends-invented-jobs-and-spread-religion/)」(MIT Technology Review、2024年11月27日)

– 「[Researchers let AI models run a simulated society](https://fortune.com/2026/05/28/ai-model-simulation-claude-chatgpt-grok-gemini/)」(Fortune、2026年5月28日)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA